数学の命題示しました

主に組合せ論について,読んだ本で出てきたことや,考えたことを書きます.

第一種,第二種スターリング数を対称多項式で表す

本記事の結論

時間がない人のために結論だけ書くと,以下が成立する (cf. [2]).
 c(n,k)=e_{n-k}(1,2,\ldots,n-1),
 S(n,k)=h_{n-k}(1,2,\ldots,k).

 c Sはそれぞれ第一種,第二種スターリング数で,右辺は基本,完全対称式である.
この 1,2,\ldots [1]_q,[2]_q,\ldotsに変えると,
標準的な q-スターリング数と呼ばれているものが得られる.

第一種,第二種スターリング数

定義 (第一種,第二種スターリング数)
非負整数 n,kに対して第一種スターリング数 c(n,k),第二種スターリング数 S(n,k)をそれぞれ
 x(x-1)\cdots(x-n+1)=\sum_{k=0}^n(-1)^{n-k}c(n,k)\cdot x^k,
 x^n=\sum_{k=0}^nS(n,k)\cdot x(x-1)\cdots(x-k+1)
を満たす実数として定義する.

スターリング数は実は非負整数になり,以下のような組合せ論的な意味をもつ.

定理1 (第一種スターリング数の組合せ論的意味づけ,cf. [1])
任意の非負整数 n,kについて,第一種スターリング数 c(n,k)は,
 n文字の置換のうちサイクル数 kであるものの個数に等しい.

定理2 (第二種スターリング数の組合せ論的意味づけ,cf. [1])
任意の非負整数 n,kについて,第二種スターリング数 S(n,k)は,
 n点集合の k部分への分割の個数に等しい.

上記二つの性質の説明は,本ブログの記事
第一種,第二種スターリング数 - 数学の命題示しました
でも述べた.
また,スターリング数は以下の漸化式を満たすことが知られている.

定理3 (スターリング数の満たす漸化式.cf. [2])
 c(n+1,k)=n\cdot c(n,k)+c(n,k-1),
 S(n+1,k)=k\cdot S(n,k)+S(n,k-1),

上記の漸化式についての証明は,Wikipediaの記事が見やすいかもしれない.

本記事では,対称多項式を使ってスターリング数を表す方法について述べる.

基本対称式や完全対称式を使ってスターリング数を表す

基本対称式 e_k(x_1,\cdots,x_n)と完全対称式 h_k(x_1,\cdots,x_n)の定義は
色々な方法があるが,ここでは以下のように定義する.

定義 (基本対称式,完全対称式)
変数 x_1,\ldots,x_nについての多項式 e_k(x_1,\ldots,x_n) h_k(x_1,\ldots,x_n)
とを,それぞれ以下を満たす式として定義する.
 \sum_{k\geq 0}e_k(x_1,\ldots,x_n)t^k=\prod_{i=1}^n(1+tx_i),
 \sum_{k\geq 0}h_k(x_1,\ldots,x_n)t^k=\prod_{i=1}^n\frac{1}{1-tx_i}.

これを使って,第一種,第二種スターリング数は以下の通り表される.

定理4 (スターリング数の対称多項式を使った表示.cf. [2])
 c(n,k)=e_{n-k}(1,2,\ldots,n-1),
 S(n,k)=h_{n-k}(1,2,\ldots,k).

定理4の証明の概略

基本対称式と完全対称式はそれぞれ,以下の漸化式を満たす.

定理5 (基本対称式,完全対称式の満たす漸化式)
 e_m(z_1,\ldots,z_n,z_{n+1})=z_{n+1}e_{m-1}(z_1,\ldots,z_n)+e_m(z_1,\ldots,z_n),
 h_m(z_1,\ldots,z_n,z_{n+1})=z_{n+1}h_{m-1}(z_1,\ldots,z_n,z_{n+1})+h_m(z_1,\ldots,z_n).

この漸化式については,上は[3],下は[4]を参照せよ.

この漸化式に
 (z_1,z_2,\ldots):=(1,2,\ldots)
を入れれば,例えば e_{n-k}(1,2,\ldots,n-1) c(n,k)とは
定理3にある漸化式をともに満たすことが分かる.
 S(n,k)についても同様である.