数学の命題示しました

主に組合せ論について,読んだ本で出てきたことや,考えたことを書きます.

要素が全部1のヘッセンベルグ行列のn乗の(1,1)成分はカタラン数

対角成分の一つ上まで非零要素が入っていてよいような行列をヘッセンベルグ行列という.
行列 A\triangleq(\chi_{i+1\geq j})_{i,j=1}^{\infty}

 =\begin{pmatrix}
1&1&0&0&0&0&0&\cdots\\
1&1&1&0&0&0&0&\cdots\\
1&1&1&1&0&0&0&\cdots\\
1&1&1&1&1&0&0&\cdots\\
1&1&1&1&1&1&0&\cdots\\
1&1&1&1&1&1&1&\cdots\\
1&1&1&1&1&1&1&\cdots\\
\vdots&\vdots&\vdots&\vdots&\vdots&\vdots&\vdots&\cdots\\
\end{pmatrix}
をここでは「要素が全部1のヘッセンベルグ行列」と呼ぶ.( \chi_Pは命題 Pの特性関数.)

命題
 n自然数とする.
行列 A^n (1,1)成分はカタラン数である.つまり
 \displaystyle\left[A^n\right]_{1,1} =C_n=\frac{1}{n+1}\binom{2n}{n}が成り立つ.
証明
有向グラフ G\triangleq(V,E) V\triangleq\mathbb{N}=\{1,2,\ldots\}
 \displaystyle E\triangleq\bigcup_{i=1}^\infty\bigcup_{j=1}^{i+1}\{(i,j)\}
により定義すると,行列 Aはグラフ Gの隣接行列である.
よって, A^n (1,1)成分は Gの節点 1から節点 1への,長さ nの歩道の数である.
ここで,グラフ Gの全ての節点は節点1への枝を持つので,上記の歩道の数は節点 1を始点とする長さ n-1の歩道の数に等しい.

そのような歩道を,訪れた順に節点を並べることにより
 (a_1,a_2,\ldots,a_n)という節点の列として表記する.
 a_1=1である.また,歩道の長さが n-1なので,この列の長さは nなことに注意.)
するとグラフの作り方から 1\leq a_i\leq a_i+1が成り立つ.

例:長さ 3の歩道は
 (1,1,1),(1,1,2),(1,2,1),(1,2,2),(1,2,3)の5通り.

このような列から「サイズ nのballot sequence」への全単射を構成する.
サイズ nのballot sequenceとは, n個の 1 n個の -1からなる長さ 2nの列で,すべての部分和が非負なものである.
サイズ nのballot sequenceの数はカタラン数 C_nであることが知られている.
(例えば [1]の問77を見よ.)

例:サイズ 3のballot seqenceは
 (1,1,1,-1,-1,-1),(1,1,-1,1,-1,-1),(1,1,-1,-1,1,-1),(1,-1,1,1,-1,-1),(1,-1,1,-1,1,-1)の5通り.


長さ nの歩道からサイズ nのballot sequenceへの全単射は以下のように作る.([1]の問80より.)
 a_{n+1}\triangleq 1, b_i\triangleq a_i-a_{i+1}+1とする.
歩道 (a_1,\ldots,a_n)の各 a_iを, 1,-1^{b_i}に置き換える.
 -1^{b_i}は, b_i個の -1を表す.)

例: (1,2,1)\mapsto(1,1,-1,-1,1,-1)

(証明終わり)

参考文献:
StanleyのCatalan numbers (2015)
www.amazon.com