第一種スターリング数の恒等式 Σc(n,k)2^k=(n+1)!の三通りの証明
追記:よりシンプルな証明を本で見つけたので、記事にしました。
iwalion.hatenablog.com
ツイッターで「スターリング数」で検索してみると、次のようなツイートを見かけた。
第1種スターリング数(n個の数をkこの巡回列に分解する方法の場合の数)のこの性質、1つ目は直感的に理解できるんだけど2つ目のこれどうやっても直感的に理解できない pic.twitter.com/tqqum01I2Q
— さかな (@Enjapma_kyopro) 2019年9月22日
消えたときのためにもう一度書いておくと
命題1
をどう示すか、という問題である。(上記のは第一種スターリング数。)
この記事では、この式について代数的証明、全単射的証明その1、全単射的証明その2をつける。
命題1を直感的に理解したいという元のツイートの趣旨を、全単射的証明により叶えられたらよいと思っている。
全単射的証明その2では第一種スターリング数を「の置換でサイクル数なものの数」として理解するのではなく、「0-1タブロー」と呼ばれるオブジェクトとして扱う。
(見方を変えただけでやっていることは全単射的証明その1と一緒な気はする。)
代数的証明
第一種スターリング数の定義は色々あるが、例えば
(式0):
を満たす数と定義される。
つまり、左辺を展開したときのの係数が第一種スターリング数である。
(例えばWikipediaを参照: スターリング数 - Wikipedia)
式0にを入れれば、命題1が示される。(証明終わり)
全単射的証明その1
以下のことを示す。
(式1):.
式1が示せれば、帰納法により命題1が示される。
式1を全単射的に示すために、「色付き置換」というオブジェクトを考える。
(これについては、以前の記事で述べたものと同じであるがもう一度書いておく。)
「色付き置換」の集合を
と定める。つまり色付き置換とは、置換をサイクル分解してサイクルごとに色を決めたものである。
式1を示すには、以下のような全単射を構成すればよい。
.
全単射は次のように構成できる。
ととをとったとき、の元を次のように定める。
- のとき、色をもつ新しいサイクルを色付き置換に追加する。
- のとき、色付き置換には要素を含むサイクルが存在する。要素の前に要素を追加する。
この対応は全単射的である。
(証明終わり)
全単射的証明その2
この証明ではまず、置換を全単射的に「0-1タブロー」というオブジェクトにに変換する。
「0-1タブロー」はLeroux [1]により導入されたオブジェクトで、ここでは次のように定義する。
分割は次の条件を満たすとする。
- である。
- 転置をとった分割は要素がすべて異なる、つまりを満たす。
このような分割のヤング図形の各列に一個づつを入れ、残りの場所にを入れたものを「0-1タブロー」といい、その集合をとかく。
例:
以下に見るように、この「0-1タブロー」を使って第一種スターリング数を表すことができる。
補題
下式が成立する。
.
補題を証明する前に、置換の「標準サイクル記法」について説明する。
標準サイクル記法とは、置換をサイクル分解したあと、各サイクルを先頭が最も小さい巡回置換として書き、それらの巡回置換を先頭要素が小さい順に一列に並べたものである。
つまり、置換
の標準サイクル記法は
である。
補題の証明
この証明はde Médicis [2]から引用している。
文字の置換でサイクル数のものと、集合との間に全単射を作ることができる。
全単射は以下のように帰納的に構成する。
まず、1文字の置換は、空の0-1タブローに対応するとする。
つまり、.
次に置換が文字の置換であるとき、文字を抜いて文字の置換を作る。
置換に対しては、0-1タブローがもうすでに構成されているとする。
その上で、
- 文字が置換において、サイクルに含まれるとき:
とする。
- 文字が置換において、でないあるサイクルに含まれるとき:
置換の標準サイクル記法において、文字が左から番目にあるとする。
このとき、タブローの先頭の列に個の箱を追加し、上から番目の箱に「1」を入れ、他の箱には「0」を入れる。
こうして構成された0-1タブローをの値とする。
この対応は全単射的である。
(証明終わり)
対応の例:
対応の例(順を追ってタブローを構成する様子):
以上の準備により、命題1を示すための全単射を構成できる。
命題2
以下の全単射が構成できる。
.
ここから直ちに、
が成立し、命題1が導かれる。
命題2の証明
下図の通り。(証明終わり)