数学の命題示しました

主に組合せ論について,読んだ本で出てきたことや,考えたことを書きます.

第一種スターリング数の恒等式 Σc(n,k)2^k=(n+1)!の三通りの証明

追記:よりシンプルな証明を本で見つけたので、記事にしました。
iwalion.hatenablog.com


ツイッターで「スターリング数」で検索してみると、次のようなツイートを見かけた。

消えたときのためにもう一度書いておくと
命題1
 \displaystyle\sum_{k=0}^n2^kc(n,k)=(n+1)!

をどう示すか、という問題である。(上記の c(n,k)は第一種スターリング数。)

この記事では、この式について代数的証明、全単射的証明その1、全単射的証明その2をつける。
命題1を直感的に理解したいという元のツイートの趣旨を、全単射的証明により叶えられたらよいと思っている。

全単射的証明その2では第一種スターリング数 c(n,k)を「 nの置換でサイクル数 kなものの数」として理解するのではなく、「0-1タブロー」と呼ばれるオブジェクトとして扱う。
(見方を変えただけでやっていることは全単射的証明その1と一緒な気はする。)

代数的証明

第一種スターリング数の定義は色々あるが、例えば
(式0): \displaystyle x(x+1)\cdots(x+n-1)=\sum_{k=0}^n c(n,k)x^k
を満たす数 c(n,k)と定義される。
つまり、左辺 \prod_{i=0}^{n-1}(x+i)を展開したときの x^kの係数が第一種スターリング数 c(n,k)である。
(例えばWikipediaを参照: スターリング数 - Wikipedia
式0に x=2を入れれば、命題1が示される。(証明終わり)

全単射的証明その1

以下のことを示す。
(式1): \displaystyle(n+1)\sum_{k=0}^{n-1}c(n-1,k)2^k=\sum_{k=0}^nc(n,k)2^k.
式1が示せれば、帰納法により命題1が示される。
式1を全単射的に示すために、「色付き置換」というオブジェクトを考える。
(これについては、以前の記事で述べたものと同じであるがもう一度書いておく。)
「色付き置換」の集合 \mathcal{S}_n
 \displaystyle\mathcal{S}_n\triangleq\left\{(\sigma,f)\mid \sigma\in\mathfrak{S}_n,\  f\colon (\sigma {\rm のサイクルの集合}) \to \{0,1\}\right\}
と定める。つまり色付き置換とは、置換をサイクル分解してサイクルごとに色 \{0,1\}を決めたものである。
式1を示すには、以下のような全単射 \varphiを構成すればよい。
 \varphi\colon \{0,\ldots,n\}\times \mathcal{S}_{n-1}\to\mathcal{S}_{n}.

全単射 \varphiは次のように構成できる。
 (\sigma,f)\in\mathcal{S}_{n-1} i\in\{0,\ldots,n\}とをとったとき、 \mathcal{S}_nの元を次のように定める。

  •  i=0,1のとき、色 iをもつ新しいサイクル (n)を色付き置換 (\sigma,f)に追加する。
  •  i=2,\ldots,nのとき、色付き置換 (\sigma,f)には要素 i-1を含むサイクルが存在する。要素 i-1の前に要素 nを追加する。

この対応は全単射的である。
(証明終わり)

全単射的証明その2

この証明ではまず、置換を全単射的に「0-1タブロー」というオブジェクトにに変換する。

「0-1タブロー」はLeroux [1]により導入されたオブジェクトで、ここでは次のように定義する。
分割 \lambda=(\lambda_1\geq\lambda_2\geq\ldots\geq\lambda_r\geq0)は次の条件を満たすとする。

  •  \lambda_1=nである。
  • 転置をとった分割 \lambda'は要素がすべて異なる、つまり \lambda'=(\lambda_1'\gt\lambda_2'\gt\cdots)を満たす。

このような分割 \lambdaヤング図形の各列に一個づつ 1を入れ、残りの場所に 0を入れたものを「0-1タブロー」といい、その集合を {\rm Td}(r,n)とかく。
例:
f:id:iwalion:20210527132423j:plain

以下に見るように、この「0-1タブロー」を使って第一種スターリング数を表すことができる。
補題
下式が成立する。
 \#{\rm Td}(n-1,n-k)=c(n,k).

補題を証明する前に、置換の「標準サイクル記法」について説明する。
標準サイクル記法とは、置換をサイクル分解したあと、各サイクルを先頭が最も小さい巡回置換として書き、それらの巡回置換を先頭要素が小さい順に一列に並べたものである。
つまり、置換
 \sigma=(65)(8)(47213)
の標準サイクル記法は
 \sigma=(13472)(56)(8)
である。

補題の証明
この証明はde Médicis [2]から引用している。
 n文字の置換でサイクル数 kのものと、集合 {\rm Td}(n-1,n-k)との間に全単射 \varphiを作ることができる。
全単射は以下のように帰納的に構成する。
まず、1文字の置換 \sigma=(1)は、空の0-1タブローに対応するとする。
つまり、 \varphi( (1) )\triangleq\emptyset.
次に置換 \sigma n文字の置換であるとき、文字 nを抜いて n-1文字の置換 \sigma'を作る。
置換 \sigma'に対しては、0-1タブロー Tがもうすでに構成されているとする。
その上で、

  • 文字 nが置換 \sigmaにおいて、サイクル (n)に含まれるとき:

 \varphi(\sigma)\triangleq Tとする。

  • 文字 nが置換 \sigmaにおいて、 (n)でないあるサイクルに含まれるとき:

置換 \sigmaの標準サイクル記法において、文字 nが左から i番目にあるとする。
このとき、タブロー Tの先頭の列に n-1個の箱を追加し、上から i-1番目の箱に「1」を入れ、他の箱には「0」を入れる。
こうして構成された0-1タブローを \varphi(\sigma)の値とする。

この対応は全単射的である。
(証明終わり)

対応の例:
f:id:iwalion:20210527132517j:plain

対応の例(順を追ってタブローを構成する様子):
f:id:iwalion:20210527132555j:plain

以上の準備により、命題1を示すための全単射を構成できる。
命題2
以下の全単射 \psiが構成できる。
 \displaystyle \psi\colon\bigsqcup_{k=0}^{n}{\rm Td}(n-1,n-k)\times\{0,1\}^k\to {\rm Td}(n+1,n+1).

ここから直ちに、
 \displaystyle \sum_{k=0}^nc(n,k)2^k=c(n+2,1)=(n+1)!
が成立し、命題1が導かれる。

命題2の証明
下図の通り。(証明終わり)
f:id:iwalion:20210527132610j:plain

補足:この全単射と同じノリで、式0に x=r+1を入れてできる式
 \displaystyle (n+1)!=r!\sum_{k=0}^n(r+1)^kc(n-r+1,k)
全単射的に示すことができる。