数学の命題示しました

主に組合せ論について,読んだ本で出てきたことや,考えたことを書きます.

q-二項係数

この記事では q-二項係数を組合せ的に定義し,その値を求めます.

非負整数  m,nが与えられているとします.
長さ1の水平な線分と垂直な線分を使って作れる,点  (0,n)から点  (m,0)への最短路の個数は,二項係数を使って
 \binom{m+n}{n}
と表されます.図1はそのような最短路の例です.

図1: 点(0, 4)と点(5, 0)を結ぶ最短路の例



定義と例

 q-二項係数は二項係数の拡張です.まず一つ必要な定義をします.
 (0,n)から点  (m,0)への最短路  Pに対してその面積 {\rm area}(P)を,路  Pと, x軸, y軸で囲まれた部分の面積だと定義します.
例えば図1の路を Pとすると,その面積は  {\rm area}(P)=14です.例えば {\rm area}(P)は図2における緑色の部分の面積に対応しています.

図2: 緑色の領域の面積が {\rm area}(p)

面積を使って q-二項係数を次のように定義します.
定義( q-二項係数)
非負整数  m,nに対し,
\binom{m+n}{n}_q\triangleq\sum_{P:(0,m){\rm to}(n,0)} q^{{\rm area}(P)}
を, m+n, nに対する  q-二項係数という.
ただし和の添字は, (0,m)から  (n,0)への最短路全てについての和をとることを意味する.

 q-二項係数は, q=1のとき通常の二項係数に一致し,その意味で通常の二項係数の一般化となっています.
例として m=2, n=2の場合について定義を確認してみます.
 (0,2)と点  (2,0)を結ぶ最短路は六つあり,面積0, 1, 3, 4のものがそれぞれ一つづつ,面積2のものが二つあります.詳しくは表1を見てください.
よって定義から 4,2に対する q-二項係数は,
\binom{4}{2}_q=1+q+2q^2+q^3+q^4です.



表1: 点  (0,2)と点  (2,0)を結ぶ最短路の一覧と,その面積.

 P  {\rm area}(P)
0
1
2
2
3
4

 q-二項係数を求める

与えられた非負整数  k\leq nに対し,\binom{n}{k}_qの値を求めます.

命題1
非負整数  n,k 1\leq k\leq nを満たすとする.そのとき,
\binom{n+1}{k}_q = q^k\binom{n}{k}_q + \binom{n}{k-1}_q.

証明
左辺は点  (0,k)と点  (n-k+1,0)をむすぶ最短路  Pについて  q^{{\rm area}(P)}の和をとったものです.
そのような最短路を,

  1.  (0,k)から下へ行くもの
  2.  (0,k)から右へ行くもの

の二つに分けます.
前者の場合,点 (0,k)から下へ伸びている最短路は全て,「点  (0,k-1)と点  (n-k+1,0)をむすぶ最短路」に「点 (0,k-1) から点 (0,k)への線分」をつけたものになっています.図3は前者の場合の路の模式図です.

図3: 路が点 (0,k)から下にのびている場合.
「点 (0,k-1) から点 (0,k)への線分」をつける前と後で面積は変化しないので,前者に含まれる最短路  P_1について q^{{\rm area}(P_1)}の和をとると,それは  \binom{n}{k-1}_qに一致します.


後者の場合,点 (0,k)から右へ伸びている最短路は全て,「点  (0,k)と点  (n-k,0)をむすぶ最短路」を右方向に1だけ平行移動したものになっています.
図4は後者の場合の模式図で,赤い路は点 (0,k)から点 (n-k+1,0)への最短路を表していて,黄色い路は赤い路に対応する,点 (0,k)から点 (n-k,0)への最短路を表しています.

図4: 路が点 (0,k)から右にのびている場合.赤い路は,黄色い路を右に1ずらすことで作られる.
平行移動の前と後で,面積はちょうど k増加します.よって後者に含まれる最短路  P_2について q^{{\rm area}(P_2)}の和をとると,それは  q^k\binom{n}{k}_qに一致します.

以上から,左辺と右辺が等しいことが言えます.(証明終)


命題2
非負整数  n,k 1\leq k\leq nを満たすとする.そのとき,
\binom{n+1}{k}_q = \binom{n}{k}_q + q^{n-k+1}\binom{n}{k-1}_q.

証明
命題1と同様なので省略.


命題3 ( q-二項係数の値)
非負整数  k\leq nに対し,
 \binom{n}{k}_q = \frac{(1-q^{n-k+1})\cdots (1-q^{n})}{(1-q^{k})\cdots (1-q)}.

証明
 q\neq 1として命題1と命題2を組み合わせると,以下の漸化式を得る.
 \binom{n}{k}_q = \frac{1-q^{n-k+1}}{1-q^k}\binom{n}{k-1}_q.
定義より \binom{n}{0}_q=1なので,命題3の主張を得る.(証明終)


この式を見ると,ふつうの二項係数の式
 \binom{n}{k} = \frac{n!}{k!(n-k!)}の一般化になっていることがわかります.
実際, q\to 1の極限が,ロピタルの定理などを使うとたぶん計算できて,右辺は \frac{n!}{k!(n-k!)}に一致します.



参考文献:
G. E. Andrews, R. Askey, R. Roy. (1999) "Special Functions." Cambridge university press.