q-二項係数
この記事では-二項係数を組合せ的に定義し,その値を求めます.
非負整数 が与えられているとします.
長さ1の水平な線分と垂直な線分を使って作れる,点 から点 への最短路の個数は,二項係数を使って
と表されます.図1はそのような最短路の例です.
定義と例
-二項係数は二項係数の拡張です.まず一つ必要な定義をします.
点 から点 への最短路 に対してその面積を,路 と,軸,軸で囲まれた部分の面積だと定義します.
例えば図1の路を とすると,その面積は です.例えばは図2における緑色の部分の面積に対応しています.
面積を使って-二項係数を次のように定義します.
定義(-二項係数)
非負整数 に対し,
を,に対する -二項係数という.
ただし和の添字は,から への最短路全てについての和をとることを意味する.
-二項係数は,のとき通常の二項係数に一致し,その意味で通常の二項係数の一般化となっています.
例としての場合について定義を確認してみます.
点 と点 を結ぶ最短路は六つあり,面積0, 1, 3, 4のものがそれぞれ一つづつ,面積2のものが二つあります.詳しくは表1を見てください.
よって定義からに対する-二項係数は,
です.
表1: 点 と点 を結ぶ最短路の一覧と,その面積.
0 | |
1 | |
2 | |
2 | |
3 | |
4 |
-二項係数を求める
与えられた非負整数 に対し,の値を求めます.
命題1
非負整数 は を満たすとする.そのとき,
.
証明
左辺は点 と点 をむすぶ最短路 について の和をとったものです.
そのような最短路を,
- 点から下へ行くもの
- 点から右へ行くもの
の二つに分けます.
前者の場合,点から下へ伸びている最短路は全て,「点 と点 をむすぶ最短路」に「点 から点への線分」をつけたものになっています.図3は前者の場合の路の模式図です.「点 から点への線分」をつける前と後で面積は変化しないので,前者に含まれる最短路 についての和をとると,それは に一致します.
後者の場合,点から右へ伸びている最短路は全て,「点 と点 をむすぶ最短路」を右方向に1だけ平行移動したものになっています.
図4は後者の場合の模式図で,赤い路は点から点への最短路を表していて,黄色い路は赤い路に対応する,点から点への最短路を表しています.平行移動の前と後で,面積はちょうど増加します.よって後者に含まれる最短路 についての和をとると,それは に一致します.
以上から,左辺と右辺が等しいことが言えます.(証明終)
命題2
非負整数 は を満たすとする.そのとき,
.
証明
命題1と同様なので省略.
命題3 (-二項係数の値)
非負整数 に対し,
.
証明
として命題1と命題2を組み合わせると,以下の漸化式を得る.
.
定義よりなので,命題3の主張を得る.(証明終)
この式を見ると,ふつうの二項係数の式
の一般化になっていることがわかります.
実際,の極限が,ロピタルの定理などを使うとたぶん計算できて,右辺はに一致します.
参考文献:
G. E. Andrews, R. Askey, R. Roy. (1999) "Special Functions." Cambridge university press.